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歯科医のための「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)」ダイジェスト

1.ARONJの診断

以下の3項目を満たした場合にARONJと診断。

  1. 1)BPまたはデノスマブによる治療歴がある。
  2. 2)顎骨への放射線照射歴がない。また骨病変が顎骨へのがん転移ではないことが確認できる。
  3. 3)医療従事者が指摘してから8週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める、または口腔内、あるいは口腔外の瘻孔から触知できる骨を8週間以上認める。ただしステージ0に対してはこの基準は適用されない。

2.骨吸収抑制薬の使用と歯科治療の連携

1.骨吸収抑制薬を「使用予定」の患者の歯科治療

  • 全ての歯科治療は骨吸収抑制薬治療開始の2週間前までに終えておくことが望ましい。
  • しかし、がん患者で骨吸収抑制薬治療を遅らせることができない場合や、骨折リスクが高い骨粗鬆症患者では、骨吸収抑制薬治療と歯科治療とを並行して進めることもやむ終えない。
    ※骨吸収抑制薬使用開始後でも累積投与量が少ないうちであれば、骨吸収抑制薬の影響を少なくすることができるのではないかという考えが一般的(岸本、2017)。
  • 骨吸収抑制薬治療中は、歯科医師による定期的な口腔内診査を患者に対して推奨し、歯科医師は口腔内診査の結果を主治医に連絡する。

2.骨吸収抑制薬を「使用中」の患者の歯科治療

侵襲的歯科治療「前」のBP休薬

  • 侵襲的歯科治療前のBP休薬がONJを予防するか否かは不明である。
  • しかし、AAOMS(米国口腔顎顔面外科学会)は、骨吸収抑制薬投与を4年以上受けている場合、あるいはONJのリスク因子を有する骨粗鬆症患者に侵襲的歯科治療を行う場合には、骨折リスクを含めた全身状態が許容すれば2カ月前後の骨吸収抑制薬の休薬について主治医と協議、検討することを提唱し、これに日本口腔外科学会、韓国骨代謝学会/口腔顔面外科学会、IAOMS(国際口腔顔面外科学会)が賛同している。
    ※BPが骨に長期間残留する点から推察して、短期間のBP休薬がBRONJの予防になるのかは不明であるが、BPには細胞遊走や血管新生など「骨以外への作用」もあることは知っておきたい(岸本、2017)。

BP「使用中」の患者の歯科治療

  • 歯科治療は基本的にはBPは休薬せずに侵襲的治療をできる限り避けるが、抜歯など侵襲的治療が避けられない場合は、術前から抗菌薬を投与(「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」を参考に、ペニシリンアレルギーのない患者では、アモキシシリン1回250mg~1000mgを手術1時間前から服用し、術前のみの単回投与か術後の追加投与が必要かは、手術侵襲や感染リスク因子から判断:追加する場合は、最長でも48時間(岸本、2017))し、侵襲の程度、範囲を可及的に最小に抑え、処置後に残存する骨の鋭端は平滑にし、術創は骨膜を含む口腔粘膜で閉鎖する(抜歯窩は(創縁を寄せる程度の縫合をすることはあるものの)開放創としているが、特に問題を認めていない(岸本、2017))。
    ※BP使用中患者、特に低用量使用の場合には、必要以上に抜歯制限を行わず、抜歯以外の治療で慢性炎症の制御が難しい場合には、抗菌薬の術前投与など感染予防に注意して抜歯する(高岡、2019)

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デノスマブ「使用中」の患者の歯科治療

  • BPの場合と同様に、徹底した感染予防処置を行なった上で休薬は行わずに、できるだけ保存的に、やむを得ない場合は侵襲的歯科治療を進める。
  • 骨粗鬆症患者に対するデノスマブの投与は6カ月ごとに1回であり、デノスマブの血中半減期が約1カ月であることなどを加味して、歯科治療の時期や内容を検討する。
    ※休薬せずにデノスマブ使用後3~4カ月目の終わりまでに侵襲的歯科治療を実施し、侵襲的歯科治療後は骨性治癒がみられる2ヵ月前後経過観察ののち、次のデノスマブの使用時期をむかえるのが望ましいと解釈できる(岸本、2017)。

侵襲的歯科治療「後」の骨吸収抑制薬の休薬

侵襲的歯科治療終了後、術創が治癒するまでの間は、術創の治癒状態と主疾患のコントロール状態、骨折リスクなどを主治医と歯科医とが総合的に判断し、必要であれば骨吸収抑制薬の休薬、もしくは代替薬への変更を検討する。

骨吸収抑制薬「再開時期」

  • 侵襲的歯科治療後に休薬した場合、骨吸収抑制薬再開は基本的には侵襲的歯科治療部位の十分な骨性治癒がみられる2ヵ月前後が望ましい。
  • しかしながら主疾患の病状により投与再開を早める必要がある場合には、術創部の上皮化がほぼ終了する2週間を待って創部に感染がないことを確認したうえで投与を再開する。
  • 歯科医師は侵襲的歯科治療部位の治癒を確認できた時点で骨吸収抑制薬の投与再開を主治医に速やかに連絡する。

3.参考情報

1.ARONJの発生頻度

  • ONJ国際タスクフォースの推定値として、経口、静注を問わず窒素含有BP治療を受けている骨粗鬆症患者におけるONJ発生率は、0.001~0.01%。
  • 骨粗鬆症患者で、経口BP治療患者、静注BP治療患者、デノスマブ治療患者では、患者10万人当たり発生率は、それぞれ1.04~69人、0~90人、0~30.2人とされる。
  • DRONJの発生頻度は、BRONJの発生頻度とほぼ同じである。
  • がん患者では、骨粗鬆患者よりもONJ発生率は高い。

2.ARONJのリスク因子

いずれの因子もエビデンスに基づいて確定されたものではないこといに留意。

ARONJのリスク因子

(ポジショニングペーパーより引用)

3.ARONJのステージングと治療

以下は、いずれも有効性が証明されているものではなく、エキスパートの意見を集約したもの。

ARONJの治療

基本的に以下の3項目に集約。

  1. 1)骨壊死領域の進展を抑える。
  2. 2)疼痛、排膿、知覚異常などの症状の緩和と感染制御により患者のQOLを維持する。
  3. 3)歯科医療従事者による患者教育および経過観察を定期的に行い、口腔管理を徹底する。

ステージに関係なく、分離した腐骨片は非病変部の骨を露出することなく除去する。露出壊死骨内の症状のある歯は、抜歯しても壊死過程が増悪することはないと思われるので抜歯を検討する。

ステージ 臨床症状および画像所見 治療
0 臨床症状:
骨露出/骨壊死なし、深い歯周ポケット、歯牙動揺、口腔粘膜潰瘍、腫脹、膿瘍形成、開口障害、下唇の感覚鈍麻または麻痺(Vincent症状)、歯原性では説明できない痛み
画像所見:
歯槽骨硬化、歯槽硬線の肥厚と硬化、抜歯窩の残存
注:ステージ0のうち半分はONJに進展しないとの報告があり、過剰診断とならないよう留意する。
ステージ1と同様
1 臨床症状:
無症状で感染を伴わない骨露出や骨壊死またはプローブで骨を触知できる瘻孔を認める。
画像所見:
歯槽骨硬化、歯槽硬線の肥厚と硬化、抜歯窩の残存
抗菌性洗口剤の使用、瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄、局所的抗菌薬の塗布・注入
2 臨床症状:
感染を伴う骨露出、骨壊死やプローブで骨を触知できる瘻孔を認める。骨露出部に疼痛、発赤をを伴い、排膿がある場合と、ない場合がある。
画像所見:
歯槽骨から顎骨に及ぶびまん性骨硬化/骨溶解の混合像、下顎管の肥厚、骨膜反応、上顎洞炎、腐骨形成。
抗菌性洗口剤と抗菌薬の併用
[難治例]複数の抗菌薬併用療法、長期抗菌薬療法、連続静注抗菌薬療法、腐骨除去、壊死骨掻爬、骨切除
3 臨床症状:
疼痛、感染または1つ以上の下記の症状を伴う骨露出、骨壊死、またはプローブで触知できる瘻孔。
歯槽骨を超えた骨露出、骨壊死(例えば、下顎では下顎下縁や下顎枝にいたる/上顎では上顎洞、頬骨にいたる)。その結果、病的骨折や口腔外瘻孔、鼻・上顎洞口腔瘻孔形成や下顎下縁や上顎洞までの進展性骨溶解。
画像所見:
周囲骨(頬骨、口蓋骨)への骨硬化/骨溶解進展、下顎骨の病的骨折、上顎洞底への骨溶解進展
腐骨除去、壊死骨掻爬、感染源となる骨露出/壊死骨内の歯の抜歯、栄養補助剤や点滴による栄養維持、壊死骨が広範囲に及ぶ場合、顎骨の辺縁切除や区域切除

ARONJ治療中の骨吸収抑制薬の使用

  1. 1. ARONJが発生した場合、骨吸収抑制薬を休薬するか、継続するかに関して、一定の見解はない。
    ※同じポジショニングペーパー内(P.10)に、骨吸収抑制薬の「休薬が望ましい」という記載もある。
  2. 2. がん患者では原則として休薬しない。
  3. 3. 骨粗鬆症患者では、ARONJ治療が完了するまでの間、骨吸収抑制薬の継続の可否を検討する。
  4. 4. 骨折リスクが高い場合、代替薬による骨粗鬆症治療を検討する。
  5. 5. ARONJに対して外科的治療を行なった場合、術後は手術創が治癒するまで骨吸収抑制薬の投与を控えた方が継続投与よりも治癒は良好であったとの結果もある(Hinson, 2015)。

参考
骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016
高岡一樹、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)の現状と今後の課題、日薬理、2019
岸本裕充、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の最新情報、日口腔インプラント、2017
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン

記事監修
院長 宮嶋 大輔

新潟大学卒
東京医科歯科大学大学院卒業
歯学博士、口腔外科認定医、インフェクションコントロールドクター。

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