すぐ使える!
歯科医院のための
急変対応・
超ポイント11選

歯科治療中の急変

超ポイント!

歯科医師会に対するアンケート調査

歯科医師会に対するアンケート調査(n=104)
(山口秀紀、デンタルハイジーン、38(9)、2018. より改変)

急変の予防と準備

問診票で診療前に、既往歴、アレルギー歴、内服薬などを必ず確認。
①持病の増悪か、②歯科治療による発症か、判断できるよう準備。

<AMPLE>

A:Allegy…アレルギー
M:Medication…内服薬
P:Pastmedical history…既往歴
  Pregnancy…妊娠
L:Last meal…最終食事
E:Event…病気の経過

急変対応のポイント

急変を早期に認識し、心肺停止に至る前に対処。
心肺停止すると救命は困難。

  • 「急変」前に「前兆」あり
  • まずは診療を止めて、バイタルを確認
  • 心肺停止に至る前に対処する!心肺停止させない!

超ポイント!

急変患者対応の流れ

  • 1. 第一印象「何か変?」
  • 2. スタッフを集める!
  • 3. 初期評価「ABCDアプローチ」
  • 4. OMI(O 酸素、M モニター、I 静脈路)
  • 5. 二次評価「バイタルサイン」
  • 6. 診断・治療(119番通報)

1. 第一印象「何か変?」

見ため、皮膚色、呼吸など数秒で把握するなかで、直感として「いつもと違う」「何か変だな」と感じたら、急変対応のスイッチON!

2. スタッフを集める!

「患者さんが急変したかもしれない」と感じたら、まずはスタッフを集める!
集まったスタッフに以下の指示を出す。

  • 119番通報
  • 「急変セット」を持ってきてもらう
  • スタッフをもっと集めてもらう

3. 初期評価「ABCDEアプローチ」

ABCDEアプローチは、生理学的徴候を「酸素の流れ」の順に観察する手順。

超ポイント!

A:Airway…気道
B:Breathing…呼吸
C:Circulation…循環
D:Disability…意識
E:Exposure and Environmental control…脱衣と外表の観察、体温の保温

ABCDに異常があれば重症の可能性が高い!

ABCDEアプローチ

(Medcast より引用)

ABCDEアプローチ

(ResearchGate より引用)

気道の確保が最優先

患者さんに呼びかけて、発語や発声があるかを評価。

気道の確保

4. OMI(酸素、モニター、静脈路)

ABCDに異常があれば、O 酸素、M モニター、I 静脈路(ルート)、をルーチンに行う。
※静脈路は可能な範囲で行う。無理はしない。

<O 酸素投与>

酸素投与

<M モニター>

抜歯などで普段から使って、スタッフが使い慣れているようにする。

<I 静脈路>

・太いルート確保(20G以上)
・生理食塩水でOK
・可能な範囲でOK(無理はしない)

<手順>

  • 1. 駆血帯を巻く
  • 2. 刺入部位の確認
  • 3. 刺入部位の消毒
  • 4. 静脈留置針の刺入
  • 5. 刺入時の逆血確認
  • 6. 静脈圧迫操作と内針抜去
  • 7. 輸液チューブの接続
  • 8. 輸液の自然滴下確認
  • 9. 静脈留置針刺入部の固定

5. 二次評価「バイタルサイン」

(ABCDEの順に)バイタルサインを評価。

  • 呼吸数
  • SpO2
  • 脈拍
  • 血圧
  • 意識
  • 体温
呼吸数 正常:12~20回/分(深さ、速さ、リズム、様式も観察)
異常:9回/分以下、30回/分以上
※呼吸補助筋の使用は危険サイン
SpO2 正常:96~100%
異常:90%未満
※喫煙者は、90%前後であることも多い
脈拍 正常:50~100回/分 かつ リズムが一定
異常:50回/分未満、100回/分以上
血圧 正常:100~140 mmHg(収縮期血圧)
異常:90 mmHg以下、180 mmHg以上

※身体所見や他のバイタルサインと合わせて評価する

・高血圧:胸痛、動悸、めまい、片麻痺、意識障害
・低血圧:末梢の皮膚の湿潤、冷感、チアノーゼ、頻呼吸

6. 診断と治療

「気道異物による窒息」

仰臥位(水平位)での診療の際に異物の誤飲・誤嚥事故が起きやすい。
補綴装置・修復物、細かい歯科医療機器・材料、歯、で事故報告がある。
70歳以上で多い。

超ポイント!

窒息の対応

  • 顔を横に向ける!側臥位にする!
    ※座位にしない!起き上がらせない!
  • 患者に咳をするように指示!
  • 背部叩打法・腹部突き上げ法を行う
    ※側臥位のまま
  • 異物が視認できれば、吸引器による吸引・マギール鉗子による除去
  • 窒息!大声でスタッフを集める!
    • 119番通報
    • AED
    • 救急カート
    • もっとスタッフを集める
  • 異物が排出できた場合、X線画像で異物の排出を確認したり、咽頭・喉頭・気管粘膜の損傷、消化管の損傷などの可能性を考慮して、高次医療機関を紹介受診へ。
  • 窒息への対応中に反応がなくなったら、胸骨圧迫から心肺蘇生を開始!
    ※呼吸や脈拍の確認は必要なし
    ※胸骨圧迫30回ごとに口腔内の異物をチェック

過換気症候群

精神的な不安や極度の緊張など→過呼吸→血中二酸化炭素濃度が低下(呼吸性アルカローシス)→血中カルシウム濃度が低下→様々な症状が出現

過換気症候群の症状

  • 不安感
  • 呼吸困難感
  • 動悸
  • 胸部圧迫感
  • めまい
  • 口周囲や手足のしびれ
  • 手の硬直
  • 筋肉の痙攣

超ポイント!

過換気症候群の対応

  • できる限りゆっくりした呼吸(腹式呼吸)の指示
  • 不安感や恐怖心の軽減
    ※鎮静薬や精神安定薬は、呼吸抑制や過鎮静のリスクから推奨しない
    ※ペーパーバック法は、低酸素のリスクから推奨しない

過換気症候群の予防

  • 20〜30代の若い女性や、精神疾患を合併している患者に多いので、歯科治療歴や既往歴を確認
  • 事前の説明やスタッフの付き添いで、治療への不安や恐怖心を和らげる
  • 歯科治療時の鎮痛をしっかりする

血管迷走神経反射

ストレス・疼痛・排泄・食事など→迷走神経(副交感神経)を介して脳幹を刺激→副交感神経が活発化→徐脈、血圧低下などが出現→数分で回復

超ポイント!

血管迷走神反射の症状(副交感神経が活発化)

  • 失神
  • 気分不快
  • めまい
  • 顔色蒼白
  • 発汗
  • 眼前暗黒感
  • あくび
  • 頭痛
  • 嘔気

超ポイント!

血管迷走神経反射の対応

  • 治療の中止
  • ABCDアプローチ・OMI
  • 両下肢挙上
  • アトロピンやエフェドリンの静注(静脈路確保や薬剤の使用に慣れていれば検討)
  • 他の疾患の可能性も考慮
    状態が落ち着くまでは油断しない!
    ・(安定していれば)患者の移動:診察台にいることがストレスになることもあり、診察室以外のスペースへ移動することも検討
    ・経過観察:必ず医療従事者の目の届くところにいてもらう

血管迷走神経反射の予防

  • 女性や若年者の患者に多い
    歯科治療歴や精神的背景を確認
  • 事前の説明やスタッフの付き添いで、治療への不安や恐怖心を和らげる
  • 局所麻酔を行った患者の0.65%に出現したという報告もある(J Oral Maxilofac Surg. 2008; 66:2421-33)

超ポイント!

アナフィラキシーとの鑑別

血管迷走神経反射 アナフィラキシー
発症時間 処置直後(1分以内) 処置から数分(5分)~数時間
症状 循環器症状が中心
・徐脈
・低血圧など
循環器症状
皮膚症状
呼吸器症状
消化器症状
中枢神経症状
特徴 数分で改善

アナフィラキシー

重篤な全身性の過敏反応であり、致命的になり得る気道・呼吸・循環器症状により特徴付けられるが、典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わないこともある。

通常は急速に発現し、アレルゲン暴露から呼吸・心停止までの時間は、医薬品(注射剤)5分、ハチ刺傷15分、食物30分。

アナフィラキシーを起こしやすい製剤を投与した場合は、5分間は経過観察する。

アナフィラキシーの原因となる医材

あらゆる製剤で発症する可能性がある。
過去に複数回、安全に使用できた薬剤でも発症することがある。
投与経路は静脈内投与が最多。

・造影剤を含む診断用薬
・血液製剤を含む生物学的製剤
・抗腫瘍薬(プラチナ製剤が最多だが、タキサン系抗腫瘍薬を原因とする報告も多い)
・抗菌薬

アナフィラキシーの症状
  • 皮膚・粘膜症状:80~90%
    全身の発疹、掻痒、紅潮、浮腫
  • 呼吸器症状:70%
    呼吸困難、気道狭窄、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)
  • 循環器症状:45%
    血圧低下、意識障害
  • 消化器症状:45%
    持続する嘔吐・下痢

超ポイント!

初期対応

定義と判断基準

(日本アレルギー学会、アナフィラキシーガイドライン2022より改変)

超ポイント!

アドレナリン製剤

アドレナリン注0.1%シリンジ(テルモ)

1回投与量(0.01mg/kg)

・成人(13歳以上)0.5mg
・小児(6~12歳)0.3mg
※アナフィラキシー治療においてアドレナリン使用の絶対禁忌はない。

・1本:151円

超ポイント!

参考文献
歯科治療中の偶発症とその予防、佐藤、2005
救急初療看護に活かすフィジカルアセスメントミニガイド、日本救急看護学会セミナー委員会、2020
日本アレルギー学会、アナフィラキシーガイドライン2022

記事監修
院長 宮嶋 大輔

新潟大学卒
東京医科歯科大学大学院卒業
歯学博士、口腔外科認定医、インフェクションコントロールドクター。

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