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歯科医のための「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」

1.MRONJの診断

1-1.MRONJの定義

以下の3項目を満たした場合にMRONJと診断します。

  1. 1)BPまたはDmab製剤による治療歴がある。
  2. 2)8週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める。
    または口腔内、あるいは口腔外から骨を触知できる瘻孔を8週間以上認める。
  3. 3)原則として、顎骨への放射線照射歴がない。また顎骨病変が原発性がんや顎骨へのがん転移でない。

1-2.MRONJのステージング

  • ステージ1
  • ステージ2
  • ステージ3

<全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト(第二版)より引用>

表1 MRONJの臨床症状とステージング
ステージ1 無症状で感染を伴わない骨露出/骨壊死またはプローブで骨を触知できる瘻孔を認める。
  • 下顎隆起や顎舌骨筋線後方の骨露出(根尖病変や埋伏歯による感染由来を否定)
  • 義歯性潰瘍由来
  • 歯性感染が(ほぼ)全くない歯の自然脱落
  • 抜歯後ドライソケット様で排膿なし
ステージ2 感染/炎症を伴う骨露出/骨壊死やプローブで骨を触知できる瘻孔を認める。
発赤、疼痛を伴い、排膿がある場合とない場合とがある。
ステージ3 下記の症状を伴う骨露出/骨壊死、またはプローブで骨を触知できる瘻孔を認める。
  • 下顎では下縁や下顎枝に至る骨露出/骨壊死
  • 上顎では上顎洞、鼻腔、頬骨に至る骨露出/骨壊死、鼻・上顎洞口腔瘻形成
  • 病的骨折や口腔外瘻孔
表2 潜在性・非骨露出型病変(いわゆるステージ0)
臨床症状 臨床的に骨壊死の確証はないが、以下のような非特異的な症状または臨床所見を呈する患者。
歯周病や根尖性歯周炎の診断でもMRONJに進展するケースが存在するので注意を要する。

症状の例

  • 歯周病や根尖性歯周炎と区別のつかない歯痛
  • 顎の鈍い骨痛、顎関節部まで放散
  • 副鼻腔の疼痛、上顎洞壁の炎症、粘膜の肥厚
  • 神経感覚機能の変化

臨床所見

  • 歯の動揺
  • 口腔内あるいは口腔外の腫脹

* AAOMSは『歯原性でないこと』を強調しているが、わが国では歯性感染症から進展したMRONJが多い現状から、潜在性・非骨露出型病変の症状の例から『歯原性でないこと』を外した。
* 潜在性・不確定病変(いわゆるステージ0)は「分類」としては残すが、MRONJの診断基準(骨露出・瘻孔)を満たさないことから、MRONJの診断・統計から

<PP2023より引用>

2.MRONJのリスク因子

表3 MRONJ発症に関わるリスク因子
薬剤関連因子
  • ビスホスホネートおよびデノスマブ(投与量;高用量>低用量、累積投与量)
  • 抗スクレロスチン抗体製剤 ロモソズマブ
  • 抗悪性腫瘍薬:殺細胞性抗悪性腫瘍薬、血管新生阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬、mTOR阻害薬
  • グルココルチコイド
  • 免疫抑制薬:メトトレキサート、mTOR阻害薬
局所因子
  • 歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎などの顎骨に発症する感染性疾患
  • 侵襲的歯科治療(抜歯など)
  • 口腔衛生状態の不良
  • 不適合義歯、過大な咬合力
  • 好発部位:下顎(47-73%)、上顎(20-22.5%)、上下顎(4.5-5.5%)、その他下顎隆起、口蓋隆起、顎舌骨筋線の隆起の存在
全身因子
  • 糖尿病
  • 自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群)
  • 人工透析中の患者
  • 骨系統疾患(骨軟化症、ビタミンD 欠乏、骨パジェット病)
  • 貧血(Hb<10g/dL)
  • 生活習慣:喫煙、飲酒、肥満
遺伝的要因
  • VEGF遺伝子、RBMS3遺伝子、SIRT1遺伝子のSNPs

<PP2023より引用>

2-1.抜歯に対するPP2023の見解

最近では、抜歯だけがMRONJ発症の主たる要因ではないといわれています。
抜歯の適応となる重度の歯周病や根尖病変などの歯科疾患の多くは、すでに顎骨に細菌感染を伴っていることが多く、PP2023では、すでに抜歯前に潜在的にMRONJを発症しており、抜歯によってMRONJが顕在化するケースの存在に注意喚起しており、抜歯に対する誤った認識を解消するきっかけとなることを期待しているとしています。

3.MRONJを予防する観点からの歯科治療

PP2023によれば、近年多くの研究で、ARA(BP製剤およびデノスマブ製剤)を使用している患者の顎骨に細菌感染が暴露することにより、顎骨骨髄炎を経てMRONJが発症すると報告されているそうです。
したがって、MRONJの発症、進行において根尖病変や重度歯周病の存在は特に注意が必要です。

3-1.「投与開始前」の歯科治療

PP2023では、ARA(BP製剤およびデノスマブ製剤)投与開始前の歯科治療では、顎骨の感染性疾患は可能な限り取り除いておくことが重要で、抜歯をはじめとする侵襲的歯科治療は、可能な限りARA投与開始前に終えておくことが望ましいとしています。
抜歯適応となる主な疾患として、骨縁下う蝕、重度歯周病、活動性の根尖病変を挙げていますが、非活動性の根尖病変でも、X線画像上で境界不明瞭で比較的大きな根尖周囲の透過像を認める場合や根尖周囲の硬化性骨炎が著明な場合には抜歯の適応となることがあるとしています。

根尖病変

根管治療はARAの投与中でも可能ですが、症例によっては、治療期間が月単位に及ぶこともあり、そのような場合はARAの投与開始を遅らせないために抜歯を検討することもあります。
PP2023では、基本原則は、できるだけARAによる治療開始時期を延期しないこと、としています。

歯周病

歯周病の治療は、通常数か月から数年単位の長期にわたるため、ARA投与開始後も感染源の除去と歯周病の進行の予防を目的とした定期的な口腔管理を継続しましょう。

義歯

不適合義歯の長期使用では粘膜損傷を起こしてMRONJを発症する可能性もあるため、PP2023では、ARA投与前あるいは投与中も継続した義歯調整は必要だとしています。

3-2.「投与中」の歯科治療

PP2023では、口腔管理を中心とした継続的な歯科治療を実施し、良好な口腔衛生状態を維持することがMRONJ発症予防に重要だとしています。

(1)原則として予防的休薬をしない

PP2023では、現状においては休薬の有用性を示すエビデンスはないことから「原則として抜歯にARA(BP製剤およびデノスマブ製剤)を休薬しないことを提案する」としています。

【低用量ARA】
  • 低用量ARAでは、医師と歯科医師の間で歯科治療の必要性を共有しつつ、休薬を前提としない侵襲的歯科治療を含む全ての治療の継続が望まれるとしています。
  • 現時点では低用量ARA投与中の患者にインプラント埋入手術を行ってはならないとする根拠はないとしています。
  • デノスマブ製剤投与後の血中濃度の推移、および抜歯後の骨の治癒過程を考えると、最終投与4か月頃に抜歯を行うことが骨の治療の面で良い結果が得られる可能性があり、インプラントなどの予定手術では参考になるかもしれないとしています。
【高用量ARA】
  • 高用量ARAを投与中の患者は、慎重に抜歯の適否を判断し、まずは他に回避できる治療法があるか検討する必要があるとしています。
  • 歯科インプラント埋入手術については、他の代替治療が存在することから高用量ARA投与中の患者には行うべきではないとしています。

(2)投与中に抜歯を行う場合の注意点

①口腔清掃

PP2023では、投与中の患者に抜歯などの侵襲的歯科治療を行う際は、治療前に十分に口腔清掃をおこない口腔内細菌数の減少を図ることは重要だとしています。

②予防抗菌薬

MRONJ発症予防に特化した抗菌薬の使用については、明確な指標はないため、現時点では一般的な観血的歯科治療と同様の抗菌薬の適正使用を順守すべきとしています。

  • 岸本らの報告によれば、「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」を参考に、ペニシリンアレルギーのない患者では、アモキシシリン1回250mg~1000mgを手術1時間前から服用します。
  • 予防抗菌薬は、術前のみの単回投与か、術後の追加投与が必要かは、手術侵襲や感染リスク因子から判断しますが、最長でも48時間とします(岸本、2017)。

3分で読める!歯科医のための「予防抗菌薬」の使い方

③抜歯創処理

PP2023では、抜歯後の処理については、できるだけ骨鋭縁は削去し、粘膜骨膜弁で閉鎖することが望ましいとしていますが、無理な完全閉鎖は行わず、通常の抜歯創処理により、上皮化の進行を確認しながら治癒を期待する方法もあるとしています。

4.MRONJの治療と管理

表4 MRONJの治療
ステージ1 保存的治療(抗菌性洗口液、洗浄、局所的抗菌薬の注入など)または外科的治療(壊死骨+周囲骨切除など
ステージ2 保存的治療と外科的治療(壊死骨+周囲骨切除など)のいずれも適応されるが、外科的治療のほうが治癒率は高く、全身状態が許せば外科的治療を優先する
患者の状態や希望等により外科的治療が選択されない場合は、保存的治療(抗菌性洗口液、洗浄、抗菌薬全身投与など)を行うこともある
ステージ3 外科的治療(壊死骨+周囲骨切除、区域切除など)
患者の状態や希望等により外科的治療が選択されない場合は、保存的治療を行うこともある

<PP2023より引用>

5.MRONJの医歯薬連携

PP2023では、原則として骨粗鬆症治療を開始する患者は全例が歯科スクリーニングの対象と明記しています。

参考
薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023
全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト(第二版)
岸本裕充、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の最新情報、日口腔インプラント、2017

記事監修
院長 宮嶋 大輔

新潟大学卒
東京医科歯科大学大学院卒業
歯学博士、口腔外科認定医、インフェクションコントロールドクター。

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