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経験豊富な口腔外科医による
親知らず抜歯外来

親知らず抜歯後の「痛み止め」その最適解を考える|アセトアミノフェンかNSAIDsか、それとも?

アセトアミノフェンとNSAIDsの効果

親知らずの抜歯後の痛みに対して、これまで世界中で、さまざまな痛み止め(鎮痛薬)が使われてきました。

現在では、主にアセトアミノフェンと、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が広く使われており、その効果については多くの研究があります。

Weil氏は、コクランのシステマティックレビューで、アセトアミノフェンは親知らずの抜歯後の痛み止めとして、安全で有効な薬だと報告しています(Weil, 2007)。

また、Bailey氏はシステマティックレビューで、NSAIDsであるイブプロフェン400mgはアセトアミノフェン1000mgより抜歯後の鎮痛効果が高いことを報告しています(Bailey, 2014)。

さらに、イブプロフェン400mgとアセトアミノフェン1000mgを併用すると、抜歯後6時間では、単剤で使用するより有効だったとも報告しています(Bailey, 2014)。

ちなみにBailey氏の報告とよく似た報告があり、Moore氏はコクランレビューで、急性期の痛みに対する市販の鎮痛薬21個の効果を比較して、イブプロフェン400mgとアセトアミノフェン1000mgの併用が、他の鎮痛薬より有効だったと報告しています(Moore, 2015)。

以上をまとめると、

抜歯後の鎮痛には、アセトアミノフェン1000mgが有効ですが、イブプロフェン400mgはもっと有効で、アセトアミノフェン1000mgとイブプロフェン400mgを併用すると、さらにもっと有効だ、といえそうです。

アセトアミノフェン < イブプロフェン < アセトアミノフェン+イブプロフェン

ー備考ー
オピオイド(いわゆる麻薬性鎮痛薬など)も抜歯後の痛みどめとして使われます。
イブプロフェン400mgとオキシコドン5mgの併用は、イブプロフェン400mgとアセトアミノフェン1000mgの併用より優れた鎮痛効果を持つようですが(Au, 2015)、オピオイドは、副作用として吐き気や便秘が出てくるので、その診断と対応に診療所の歯科医としては苦慮し、使いにくさを感じます。

アセトアミノフェンとイブプロフェンの併用の威力

急性期の痛みに対する市販薬の鎮痛効果
(Moore, 2015より引用・改変)

上の図は、前述のMoore氏の報告からの引用で、急性期の痛みに対する市販薬の鎮痛効果を示したものです。

「何名の患者を治療すれば1名の患者で50%以上の痛みの軽減が得られるか?」という確率論的なグラフで、バーの色の変わり目の値(NNT)が小さいほど、鎮痛効果が期待できることを示しています。

赤矢印で示すように、イブプロフェン400mgとアセトアミノフェン1000mgの併用が、他と比べて鎮痛効果が高いことが分かります。

緑矢印のジクロフェナク25mgは、いわゆるボルタレンⓇです。

オレンジ矢印のアセトアミノフェン1000mg単剤は、イブプロフェンやジクロフェナクなどのNSAIDsに比べると、鎮痛効果は劣るといえそうです。

NSAIDsの副作用とアセトアミノフェンの安全性

痛み止めを使う際には、鎮痛効果だけでなく、副作用も考えなければなりません。

特に胃腸障害については、NSAIDs潰瘍という用語があるほど定番の問題です。

NSAIDs潰瘍の発生率は、NSAIDsの種類によっても変わります(下図1、図2)。

NSAIDsによる上部消化管出血のリスク
(2010年に発表されたシステマティックレビュー:潰瘍診療ガイドライン2015より引用)

日本で多用される日本発祥のロキソプロフェン(ロキソニンⓇ)は、プロドラックとして、胃腸に比較的やさしいとされていますが、もちろんNSAIDs潰瘍は起こります。


(厚労省、重篤副作用疾患別対応マニュアル
より引用)

NSAIDs潰瘍は、服用初期に多く発生し、特に最初の1週間の間が高率とされています(Lwwis, 2002)。

一方で、アセトアミノフェンは基本的には安全性が高く、空腹時に服用すると血中濃度が上昇するので、効果的で安全な先制鎮痛(術前に鎮痛薬を使用することで術後痛の発生を軽減させようとする方法)として有効かもしれません(村山、2009)。

もっとも抜歯に対する先制鎮痛の効果については議論がありますが。

日本の制度にあった処方を考える

最終的には、日本の保険診療制度と薬剤添付文書に記載された用法から逸脱せずに、個々の患者様に不利益にならない疼痛管理を慎重に検討する必要があります。

前述のイブプロフェン(ブルフェンⓇ)は、日本の添付文書では「抜歯後の鎮痛」の記載がないので、日本の歯科医師にとっては処方しにくい薬です。

ですから、たとえば、

  • 1. アセトアミノフェン1000mgを第1選択薬として数日分を定時処方し、その上でなお痛みがある、あるいは痛みが予想される場合は、NSAIDsであるロキソプロフェン60mgなどをレスキュー薬として数回分を頓用で処方し、慎重に経過観察する。
  • 2. 患者様が健康な若者であれば、NSAIDsであるロキソプロフェン60mgを数日分を定時処方し、アセトアミノフェン1000mgをレスキュー薬として数回分を屯用で処方し、慎重に経過観察する。

のが、妥当だろうかと考えています。

いずれにせよ、アセトアミノフェンの日本の添付文書には、下記の「重要な基本的注意」が記載されていますので、使用に際しては慎重で総合的な判断が必要かと思います。

  • 他の消炎鎮痛剤との併用は避けることが望ましい。
  • アセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により、アセトアミノフェ ンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあることから、特に総合感冒剤や解熱鎮痛剤等の配合剤を併用する場合は、アセトアミノフェンが含まれていないか確認し、含まれている場合は併用を避けること。また、アセトアミノフェンを含む他の薬剤と併用しないよう患者に指導すること。

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参考
Cho, et al. Postoperative interventions to reduce inflammatory complications after third molar surgery: review of the current evidence. Australian dental journal, 2017.
Weil, et al. Paracetamol for pain relief after surgical removal of lower wisdom teeth. Cochrane Database Syst Rev. 2007.
Bailey, et al. Ibuprofen and/or paracetamol (acetaminophen) for pain relief after surgical removal of lower wisdom teeth, a Cochrane systematic review. British dental journal, 2014.
Moore, te al. Non-prescription (OTC) oral analgesics for acute pain - an overview of Cochrane reviews. Cochrane Database Syst Rev. 2015.
Au, et. al. The Efficacy and Clinical Safety of Various Analgesic Combinations for Post-Operative Pain after Third Molar Surgery: A Systematic Review and Meta-Analysis. PloS One. 2015.
消化性潰瘍診療ガイドライン2015 https://www.jsge.or.jp/files/uploads/syoukasei2_re.pdf
Lewis, et al. Dose-response relationships between individual nonaspirin nonsteroidal anti-inflammatory drugs (NANSAIDs) and serious upper gastrointestinal bleeding : meta-analysis based on individual patients date .Br J Clin Pharmacol, 2002
村山ら、下顎埋伏智歯抜歯後の術後痛に対するアセトアミノフェン(カロナール)の先制鎮痛効果、歯薬療法、2009

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記事監修
院長 宮嶋 大輔

新潟大学卒
東京医科歯科大学大学院卒業
歯学博士、口腔外科認定医、インフェクションコントロールドクター。

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